家族同伴利用に着目した公共図書館の選択行動モデル

 本研究は,大部分の人が自家用車を移動手段とする広域型の生活圏においては,遠方の大規模館が最寄りの中小規模館よりも利用されやすくなることのモデル化を行い,大規模館の選択と関連の強い変数は何であるかを,二項ロジットモデルを用いて推定する。推定には,石狩市民図書館が,石狩市民および札幌市北区・手稲区の住民に対して行った登録者調査の結果を使用する.
 ロジットモデルの選択肢は,主利用館が大規模館(=石狩市民図書館)か最近隣館かの二択とした。図書館の利用目的,家族と一緒に図書館へ行くかの来館形態,自由に使える自家用車の有無,回答者の職業,自宅から近いことの評価,自宅から図書館までの時間距離,最近隣館が小規模館か中規模館かなどをモデルの説明変数(表1)とし,欠損値を含む回答者を除外した134人を対象にモデルを推定した。
 最尤法による推定(表2)で,定数項のみの縮小モデルの対数尤度は-91.06,完全モデルの対数尤度は-71.66であり,尤度比検定量は38.79(自由度7)となるので,全ての説明変数の係数が0であるとする帰無仮説は棄却される。モデルの適合性に関しては,McFaddenのρ2は0.213であり良好といえる。また,選択確率0.5を閾値として正答率を計算すると76.1%となる。このことからも,モデルによる予測が実際の選択結果とおおむね適合していると考えて良いであろう。
 各係数の推定結果を考察すると,@家族と一緒に図書館に行くという利用行動と大規模館の利用には有意な関連があり,家族一緒に自家用車を使って遠方の大規模館から本を借り出す利用パターンを,個人単位の図書館選択モデルとしても確認することができた。一方,単に運転できる,自家用車を持っている等の個人単位のモビリティを示した説明変数は十分な説明力を持たず,世帯のモビリティを明らかにするといったような世帯単位での利用行動モデルの必要性が示唆される。
 A正の定数項が有意であったことから,回答者には大規模館に対する無条件の傾斜が存在するといえる。他方,小規模館か中規模館かによって最近隣館と大規模館の選択が有意に変わるとはいえず,大規模館と比べた蔵書の魅力の点で3万冊か8万冊かの規模差は本質的でないことを示している。
 B従来,施設選択モデルにおいて支配的な要因と見なされてきた距離変数として本稿で採用した時間距離は有意ではなかった。これは,移動に要する時間という定義上,図書館への移動手段という要因を含んでいること,その結果として大多数の自家用車利用者に関して最近隣館と大規模館との距離差があまり生じないことが原因と思われる。「自宅から近いことの評価」や「家族同伴」が有意であったことを踏まえると,図書館利用において,距離による選択から,休日を家族とどう過ごすか等の比重が高まりつつあることが示唆される。

表1 変数の定義

変数 定義
目的変数 1=石狩市民図書館を利用
0=最近隣館を利用
説明変数 つきそい 1=主目的または副次目的が家族のつきそい
0=それ以外
家族同伴 1=家族と利用する
0=一人または友人と利用する
自家用車 1=自分専用または家族と共用の自家用車がある
0=自家用車がないまたは車の運転ができない
主婦 1=主婦(夫)
0=それ以外の職業
自宅から近いことの評価 (点)
時間距離 石狩市民図書館への時間距離−最近隣館への時間距離(分)
小規模館 1=最近隣館が区民センター図書室または地区センター図書室
0=最近隣館が地区図書館

表2 推定結果

  係数 標準誤差 p
定数項 2.6528 1.0812 0.0141
つきそい 0.8349 0.5126 0.1034
家族同伴 1.1197 0.4194 0.0076
自家用車 0.6532 0.4881 0.1808
主婦 -0.6915 0.4864 0.1551
近いことの評価 -0.7760 0.2273 0.0006
時間距離 -0.0503 0.0267 0.0595
小規模館 0.4383 0.4204 0.2971
  n=134 (n0=56/n1=78)
LogL0=-91.06
LogL=-71.66
LR=38.79〜χ2(7)
McFadden=0.2130
Percent Correct Prediction 76.11%