知の表現基盤研究部門: 文章,楽曲などのコンテンツの構造と表現に関する研究

【研究題目】VOCALOID 人気楽曲におけるメロディーの特徴
【担当者】佐々木あすか(知識情報・図書館学類),真栄城哲也(部門研究員)

 VOCALOIDが人気を集めている要因の1つは,どんな歌でも歌える,すなわち,人間が歌いにくい曲を歌えることだと推測できる.VOCALOID楽曲は,人間が歌うために作られた従来の楽曲とは異なり,音域やテンポなど,すべての要素に制限がない.よって,人間が歌いやすいように作られた従来の楽曲とVOCALOID楽曲の間には音楽的な差異があると考えられる.人間が歌いにくい楽曲の特徴としては,音域が広い,音の跳躍幅が広い,テンポが速い,早口,リズムが複雑,等が挙げられる.そのような歌いにくい特徴を避ける必要がないのがVOCALOIDの特徴であり,強みでもある.従って,人間が歌いにくいとされている楽曲の特徴が,VOCALOIDに適している楽曲の特徴だと推測できる. そして,この「非人間的」な特徴が,VOCALOID楽曲の人気の理由だと考えられ,特に VOCALOID楽曲の人気曲に顕著に現れる.
 この仮説を検証するために,既存のVOCALOIDの人気楽曲について,VOCALOIDで演奏されている部分,つまりメロディーの特徴を分析した.具体的な手法としては,週刊VOCALOIDランキングをもとに2007~2011 年の年間VOCALOID楽曲のランキングを作成し,その上位と下位 5 曲ずつを対象に,音価,音程,音域,テンポを分析した.
 以下の結果が得られた.(1)上位曲の方が下位曲より早口である.(2)音価移行の中で頻出頻度が最多である,8分音符から8分音符へ移行するパターンが,上位曲は2008年以降右肩上がりに上昇しているが,下位曲には特徴は見られない.これにより,単調なリズムが好まれる可能性がある.(3)上位曲の方が下位曲よりテンポが速い.(4)音域が広い.
 以上より,VOCALOID楽曲の魅力を最大限に引き出し,かつ人気を得やすい特徴は,音域が広い,テンポが速い,早口,である.また,リズムについては,8分音符を中心に単調なリズムを形成していることがわかった.これらがVOCALOID曲の人気の要因だと考えられ,人気曲でより顕著に現れる特徴である.

 

【研究題目】作曲に関わる知識および意思決定
【担当者】真栄城哲也(部門研究員),中山伸一(共同研究員)

 楽曲の作曲時における意思決定の表現モデルについて,これまでの作曲過程のデータを再分析し,表現モデルの問題を数点改良した.これにより,意思決定の類似度の計算と,類似した意思決定の検出性能が向上した.楽曲の意思決定構造はハイパーネットワークで記述され,類似意思決定の検索は,そのハイパーネットワーク内の構造を順次比較することで実現される.ハイパーネットワークモデルは,複数の視点および補完的な視点への切り替えができるため,意思決定の比較にはこれらの視点の違いが考慮される.個々の意思決定構造の類似度は,0.0~1.0の実数値で示されるため,類似度の高い順に意思決定構造を並べることが可能となり,類似意思決定の検出に有用である.この手法を用いることによって,類似構造を持つ楽曲の部分を作曲家へフィードバックでき,さらには演奏者へ提示することで,より表現力の高い演奏の実現を支援できる.
 一方,解析に必要となるデータである作曲時の意思決定過程については,プロの作曲家に,演奏時間が数分の楽曲の作曲を4曲分依頼した.作曲の際に,途中過程を記述してもらった.記述箇所数は,楽曲の部分に依存するが,平均で1~4小節に1つである.このデータは,本研究の目的である意思決定の解析に重要なデータである.それぞれの楽曲は,構成楽器,テーマ,使用モチーフ等の音楽的な特徴が異なるが,同一の作曲家による作品群である.解析のため,4曲間の相違点は1または2要素となっている.これら4曲の意思決定過程を,ハイパーネットワークで記述し構造化する作業を進めている.

 

【研究題目】マンガ作者の定量的なクセおよび作品間の類似度判断の関係性
【担当者】林沙輝(知識情報・図書館学類),真栄城哲也(部門研究員)

 本研究の目的は,定量的なマンガ作者のクセの同定と,定量的な指標に基づくマンガの類似度の判定である.マンガの描き方のクセが定量的に判断できれば,似ている度合いや順序付けが可能になる.さらには,著作権問題や真贋判定に利用できる.クセとして,視線誘導とセリフの使い方が有効な指標である事が明らかになった.
 これまでに出版されているマンガで,似ていると言われている作品は多く存在するが, 類似性を判断する根拠が曖昧である.マンガを構成する要素は,「絵」「文字」「記号」「擬音語・擬態語(オノマトベ)」など多数あるため,具体的にどの要素が似ていると判断する要因になっているかが不明である.同様に,マンガ作者のクセ,特に計量的なクセは明らかになっていない.マンガの場合,文章と絵という2つの要素が統合されているため,文章と絵を同時に扱えるクセの計量方法が必要である.
 まず視線誘導を可視化し,1視線の始点と終点の対象を人物絵,セリフ,記号などの要素で分類し,似ている作品ごとと,作者ごとで分析した.また,視線の流れが水平であるか,対角線であるか,連続線であるかも分析した.その結果,作者特有の視線移動のパターンが明らかになった.一方,似ている作品に共通する視線移動のパターンは存在するが,作者が意図的に使用している様子は見られなかった.次に,セリフ分析を行った.それぞれ1話分のセリフを書き出し,各品詞の割合,1セリフの中にある文字数・1改行の 文字数・改行数の平均を分析した.また,改行前の文字の割合も調査した.文章において書き手のクセとしてみられていたものは,マンガのセリフにおいてもクセであることが明らかになった.また,マンガはフキダシの枠が存在するため,文字数はある程度限られているが,作品ごとに違いが存在した.そして,マンガの要素であるコマ数,セリフ数,オノマトベ数,集中線数を作品ごとに抽出した.オノマトベ数と集中線数は,作者ではなくマンガのジャャンルごとに違いが出ることがわかった.また,セリフ数において,似ているとされている作品間では内省セリフが比較的多いことが明らかになった.
 今回の解析では,対象としたマンガ作家が4人と少ないが,作者ごとに視線誘の仕方やセリフの付け方,そしてマンガ特有の記号の使い方にクセが出ることが判明した.そしてこのマンガ作者特有のクセは,マンガにおいても作品の類似度を判断する要素の一つとして使える妥当性が明らかになった.

 

【研究題目】ライトノベルにおける登場人物の記述方法
【担当者】北原央樹(知識情報・図書館学類),真栄城哲也(部門研究員)

 ライトノベルは,書籍のジャンルとして浸透しているが,明確な定義がないという問題がある.本研究の目的は,定量的な特徴によってライトノベルの特徴を明らかにすることである.
 分析対象としてライトノベルと非ライトノベルの両方を執筆している著者の作品群を8組選択し,小説から主要登場人物の属性を抽出し,作家ごと,および全体の平均でライトノベルと非ライトノベルの比較した.(1)小説ごとの属性の記述量,(2)登場人物の出現直後に属性を記述が集中する割合,(3)小節ごとの属性の重複の度合,(4)属性の種類ごと(「性格」「外見」など)の割合,の4項目について調査した.また,属性の抽出方法については,対象となる人物を修飾している語句や文章に注目し,登場人物の一面に対する記述が途切れるまでを一区切りとしている.
 調査の結果,4項目中の2項目において差が有意だった.項目(1)では,小説一冊の中に現れる属性の記述量には有意な差が得られなかった.このことからライトノベルと非ライトノベルで登場人物の属性の量には大きな差がないことが考えられる.項目(2)では,小説内の属性の現れる部分を,登場人物ごとに文字数と登場回数の基準でまとめて比較した.この調査の結果,ライトノベルは登場人物の出現直後に属性記述量の割合が多く,また,絶対数も多いことがわかった.項目(3)では複数回現れる同じ意味を持つ属性に注目し,重複回数を計測した.その結果,重複の量はライトノベルのほうが多くなっており,重複の度合においても有意な差が見られた.項目(4)では,ライトノベルは「性格」「外見」「能力」「立場」の4つの内容区分を設定し,作品ごとにそれぞれの内容が占める割合を調査したが,4つの区分の割合は作者ごとに一定しており,ライトノベルと非ライトノベルの間に有意な差は見られなかった.
 これらの結果から,属性の記述量はライトノベルと非ライトノベルの間に差はないが, ライトノベルは物語の早い段階で登場人物の属性を記述し,以降も同じ属性を複数回記述することで,人物の印象を強めていると考えられる.登場人物が現れてから早い段階に属性の記述が集中する理由としては,作者,あるいは編集者が読者にむけて,意図的に登場人物の紹介文を執筆しているためだと考えられる.
 以上のことから,登場人物の記述方法がライトノベルを定量的に特徴づける1つの尺度だと言える.

 

【研究題目】絵本に関する知識量と,選択基準の関係
【担当者】緒方慎吾(知識情報・図書館学類),真栄城哲也(部門研究員)

 本研究の目的は,商品に対する知識量と,商品を選択する際に用いる重視度の自覚の関係を明らかにすることである.さらには,重視度に基づき,情報,特に商品の検索および選別に効果的なランキング生成方法を提案することである.一般的に商品の種類毎に複数の特性が存在する.商品を購入や選択する際,複数ある商品から1つまたは少数の商品に絞り込む必要があるが,どの特性を重要視し,どの特性を軽視または無視するかは人によって異なる.本研究では,重視度とは,商品の特性毎に重要視する度合いを数値化した値を表したベクトルであり,その大きさは商品の特性の数である.
 短時間で複数の商品の評価が可能な点であるクチコミサイトのランキングは,商品を選択する際に有用であり,商品に関する効率的な情報の検索手段を提供する.商品の種類毎に複数のランキングサイトが存在し,ランキングの生成方法も多様である.本研究で扱う重視度を用いることで,既存のランキング方法よりも利用者の要求に合ったランキングが生成可能である.しかし,人は自分の商品毎の重視度を把握しておらず,対象商品の特性毎に重要視する度合いを認識できていない問題がある.
 対象商品の重視度を調査するために,被験者30人に対し8冊の絵本を用いて,(1) 絵本を読む前,(2) 絵本を読んだ後,(3) 実際にランキングをつくった後,の3通りの重視度を調べた.実験では,絵本に関する知識量,絵本に対する重視度と各本の評価とランキング (本人ランキング),ランキングを作成するときの基準を調査した.絵本を読む前の重視度を基につくったものを前ランキング,読んだ後のものを後ランキング,被験者にランキングをつくってもらった後のものを個別ランキングとした.その3つのランキングと絵本ナビという口コミサイトのランキングの順位相関係数を計算し,本人ランキングとの関係を分析した.
 その結果,絵本ナビのランキングは絵本ナビ利用者が必要としている情報を的確に提供できていないことがわかった.代わりに,重視度を基にした前ランキング,後ランキング,個別ランキングを使うことで,効率よく商品を選択できることがわかった.さらには,絵本についての知識がない人は前ランキングか後ランキングを,知識がある程度ある人は個別ランキングを,知識が豊富な人は前ランキングを使うことが有効である結果が得られた.しかし,厳密には個人差が見られたため,個人毎の重視度を個別に調査する必要性が考えられる.

 

【研究題目】特許情報を用いた技術の進展度合いの計量化
【担当者】工藤剛(知識情報・図書館学類),真栄城 哲也(部門研究員)

 本研究の目的は,技術進展を基礎研究段階から実用段階まで包括的に計量化することである.計量化によって,技術進展の客観的な把握が可能となる.特許情報に付与される特許分類を用いて,技術進展を計量化する.日本国の特許の場合,3種類の特許分類記号が付与されるが,本研究では,より厳密な特許分類特定を行うために,FIを用いる.解析対象の技術分野として,液晶 (G02F1/00かつFタームが2H088) とカーボン (C01B31/00) を選択した.
 特許情報に付与される特許分類には,その特許を最も的確に表す筆頭分類と,補助的に付与される分類がある.本研究では,筆頭および補助的に付与された分類から個々の特許の技術融合パターンを調べ,それに基づき特許を分類する.技術融合パターンとして,単一の対象技術要素からなる単一型,対象分野の複数技術要素からなる複数単一型,異分野も含めた複数技術要素からなる応用型,異分野技術を筆頭分類に持ち,対象分野を補助分類にもつ実用型の4種類を用いる.
 液晶とカーボンについて解析した. 液晶については,応用型特許の割合が減少し,実用型特許の割合が増加している.また,先行研究で示された基礎型特許の増加傾向は確認できない.従って,液晶技術は実用化の段階にあると判断できる.一方,カーボン技術については,基礎型特許が増加傾向にあり,応用型特許の割合は増加し,実用型特許は減少している.従って,本研究の手法では,基礎研究段階の傾向と応用段階の傾向が確認でき,カーボン技術は基礎から応用の段階であると判断できる.
 これらの結果の妥当性の検証として,既に公的機関や雑誌等によって行われた,既存の手法による調査結果と比較した.液晶は様々な製品に応用されており,雑誌等の文献では出荷台数の推移や液晶が使用されている部品のリスト等,市場調査が多く存在する.従って,液晶はすでに実用化の段階であると判断できる.一方,カーボンは,急速に発展しつつある研究領域として挙げられている.さらに,カーボンは,ゴルフクラブなどの一般製品の素材や,プローブ顕微鏡のプローブとしての用途の他,各種電子デバイスや構造材料への利用,バイオテクノロジーへの応用など,幅広い応用研究が進行中である.また,基礎研究から応用研究へ移行しつつあるとの記述もあることから,カーボン技術は基礎から応用の段階であると判断できる.このように,液晶,カーボンともに,実験結果の妥当性が検証できた.

 

【研究題目】古銅印の仮想博物館モデルの構築とその実装研究
【担当者】中山伸一 (部門研究員),真栄城哲也 (部門研究員),上保秀夫(共同研究員),太田勝也 (協力研究者)

 知の表現基盤部門では,仮想博物館コンテンツの作成方法の研究の一環として,古銅印の3Dデー タを含むデータベースの構築と利用について検討して来た.これまで,部分的なデータを用いながら印面の形状分析に基づく糸印の識別研究や,金属成分の分析に基づく研究等を行って来たが,この程ようやく200個程の全ての所蔵している古銅印について,重さや大きさ,写真データ,および3D データについてのデータ収集作業を終了した.
 本研究においては,これらのデータを用いた仮想博物館をどのように構築するかを,情報検索の視点,コンテンツ表示の視点,ユーザインタフェースの視点,3D データを含む多元的なデータの取り扱いの視点などから検討した.さらに,それにより作成した新たな仮想博物館モデルをもとに,モデルシステムを iPad 上に実装した.
 近年,幾つかの博物館が仮想博物館やバーチャル博物館と呼ばれるホームページを公開しているが, 必ずしも満足なユーザインタフェースを提供しているとは言えない.また,それらの多くのコンテンツは写真データであることが多い.本研究は,優れたユーザインタフェース環境が利用できる iPad をターゲットマシンとすることにより,3Dデータのための分かりやすいユーザインタフェースを新たに検討する事に特色がある.
 本研究の成果として以下の特色を持つiPad用アプリケーションを構築した.
  ・古銅印のメタデータを利用したファセット分類検索
  ・Open GL ESの3Dレンダリング技術を利用した古銅印の三次元表示
  ・マルチポイントジェスチャアによる柔軟な3Dおよび静止画像操作(拡大・縮小・回転・移動)
  ・3Dデータ(VRML)の形状維持を伴うデータポイントの軽量化解析アルゴリズム
  ・静止画像(正面・横面・背面・印面・印字面)による古銅印の多角的表示
  ・原寸大長方形の表示による視覚印象補正
  ・アップルのガイドラインに準拠した標準的なユーザインタフェース

 

【研究題目】歌謡曲の歌詞と音価の関係性の時間的推移
【担当者】米田諒(本学図書館情報メディア研究科),中山 伸一(部門研究員),真栄城 哲也(部門研究員)

 日本の歌謡曲の歌詞の構成単位とその構成単位に対応するメロディー部分との関係を定量的に解析する方法を提案し,この方法によって日本の歌謡曲の時代別の変容を明らかにした.解析対象は1980年から2009年までの「曲に歌詞がある日本のポピュラーミュージック」とし,該当期間の1~3年間隔の合計15回分のヒットチャート上位に現れる日本の歌謡曲を各年から10曲ずつ選択した.またヒットチャート上位の楽曲であっても,洋楽や歌詞がないインストルメンタル曲は除外した.歌詞と曲の対応関係の定量化の一手法として,歌詞の構成要素である発音単位とそれぞれの発音単位に付加されているメロディー部分の音価の関係を調査した.そして,(1) 音価範囲毎の割合,(2) 発音単位当たりの音価,(3) 楽曲のテンポ,(4) 発音単位当たりの継続時間の4指標の平均および標準偏差を算出し,歌詞とメロディーの関係について1980年から2009年までの変動を調べた.
 その結果,(A)歌詞の構成要素に割り当てられる音価として,16分音符から4分音符までの範囲で特徴的な変化が見られ,日本の歌謡曲は全体の傾向として,1/8の音価を主体に制作されていることが判った.また,1/16以上1/8未満の音価に対応する発音単位の割合は,1990年代前半までは減少傾向にあるが,その後上昇し,2005年以降,1980年前後の値に戻っていることと, 1/8の音価は最も変動が激しく,最低が1997年で36.6%,最高が1992年で69.4%だったこと等が判った.(B)平均音価は,1980年から2009年まで全年にわたり8分音符から4分音符の音価の範囲に収まっていること等が判った.(C)楽曲のテンポは1990年代に下降を続け,2000年以降上昇に転じたこと等が判った.(D)平均継続時間は年々減少傾向にあり,歌うスピードはそれに伴い年々早まっていること等が判った.
 本研究の成果は,好きな楽曲やアーティストを基にそれと似た音楽的特徴を持った楽曲やアーティストを推薦するシステム,および作曲家の楽曲制作システムへの応用が考えられる.

 

【研究題目】ロックミュージックにおけるアーティストの影響構造および影響力
【担当者】柴田裕基(本学図書館情報専門学群),真栄城哲也(部門研究員)

 本研究の目的は,アーティスト間の影響関係に基づき,ロックミュージックにおいて影響力のあるアーティストを明らかにすることである.本研究では,4つの観点から影響力のあるアーティスト群を抽出し,ローリング・ストーンのランキングに出現しない,アーティスト間の影響関係は,ロックミュージックの発展の重要な原動力であると考えられる.音楽に関するデータベースサイトロックミュージックにおける重要な78のアーティストを明らかにした.“allmusic.com”から, “Pop/Rock”に属するアーティスト間の影響関係を網羅的に収集し,ロックミュージックの影響関係ネットワークを構築した.このネットワークは,アーティストの影響構造を俯瞰的に捉えたものである.これを対象に,次数中心性や媒介中心性,そして独自に考案したスタイルの継承に着目した定量的指標の3つの観点から影響力の大きなアーティスト群を抽出した.同様の影響力の大きなアーティストのリストは,2004年にローリング・ストーン誌から“100 Greatest Artists of All Time”が発表されている.このローリング・ストーン誌のランキングでは“The Beatles”が1位であるが,このランキングは編集者や音楽専門家の話し合いによって決められ,明確な判断基準は存在しない.一方,個々のアーティスト間の影響関係を収集・結合し,ロックミュージックの全体像を捉え,明確な基準を以てアーティストの影響力を定量的に測ったのが本研究である.本研究では既存の次数中心性と媒介中心性以外に,アーティストの音楽性に着目するスタイル継承指標を考案した.スタイルとは “allmusic”の分類において音楽性を表す最下位分類項目であり,各アーティストに複数付与されている.影響を与える側と与えた側のスタイルの適合率が高い程,アーティスト間でスタイルの継承が起きたと判断し,この適合率を,影響を与えたアーティストの影響力とした.これは二者間の影響力の高さが,スタイルの類似度に比例することを意味する.さらに,間接的な影響関係を含めることで,二者間だけではなく,スタイルの継承が三代目までの三者間に及んでいる場合も考慮することで,スタイル継承におけるアーティストの影響力をより精確に評価できた.

 

【研究題目】国産テレビアニメーション主題歌歌詞の音素出現率による分類 -主題歌歌詞の音素的印象とアニメーション作品の特徴との関係-
【担当者】林政宏本学図書館情報メディア研究科,中山伸一(部門研究員)

  TVアニメーション主題歌歌詞を聴いた時の印象の違いと,TVアニメーション作品の特徴との関係性を分析する以下の手法を提案し,その妥当性の検証を行った.1)音素出現率の類似性に基づき歌詞を類型化する.2)各歌詞群の音素出現率の有意な違いを音素的特徴とする.3)各歌詞群における作品の客観的特徴の有意な偏りを作品的特徴とする.4)各歌詞群に付与した音素的特徴から,音象徴を用いて音素的印象を推測し,歌詞の音素的印象と作品的特徴との関係性を考察する.
 類型化の結果得られた6個の歌詞群の内4個は「作品の放送年代」と思しき特徴が現れた.「1960年代」の歌詞群の印象は,「重い」等が高く「軽い」等が低かった.「1970年代」の歌詞群の印象は,「重い」「軽い」等の双方が高く「穏やか」等が低かった.「1980年代」の歌詞群の印象は,有意に高いものが無く「軽い」等が低かった.「1990・2000年代」の歌詞群の印象は,「軽い」等が高く「穏やか」等が低かった.一方2個の歌詞群は「作品の時代設定」と思しき特徴が現れた.「未来」の歌詞群の印象は,「脆い」等が高く「軽い」等が低かった.「過去」の歌詞群の印象は,「脆い」等が高く「重い」等が低かった.
 音象徴の概念を用いた音素的印象は,作品の印象と対応する場合が多く,本手法により歌詞の印象を一定程度表現する事ができたと考えられる.また,「作品の放送年代」と印象との間に一定の関係性が明らかにされた事から,本手法は妥当であったと考えられる.

 

【研究題目】利用者の重視度に応じた宿のクチコミサイトにおけるランキング表示
【担当者】石川 瑛子(本学図書館情報メディア研究科),中山 伸一(協力研究者),真栄城 哲也(部門研究員)

 本研究は,利用者が必要とする情報の重要度に基づいて商品等をランキング表示する手法を提案する.ここではホテル等の宿泊施設についてのクチコミサイトを対象とする.既存の宿のクチコミサイトでは,クチコミが投稿日の新しいものから順に表示されており,利用者は自分の知りたい項目についてのクチコミを1つずつ読んで探していかなければならないため,必要としている情報を得るのに時間がかかってしまう.一方,クチコミの投稿者は,文章以外に宿を点数評価することも可能である.その際,総合点数だけでなく,クチコミサイト毎に差異はあるが,「食事」,「部屋」,「接客」,「清潔感」,「風呂」等の項目について点数評価できる.このため,総合点数の高い順や,特定の1項目に限ったランキング表示も可能である.しかし,既存のクチコミサイトには,それらの項目を同じように重視したものか,1つの項目についてのランキング表示しか存在しない.
 これらの問題を解決するために,クチコミをその種類毎に分類して表示し,利用者が必要とする情報を見付けやすくする方法について検討した.また,利用者に評価点の項目をどの程度重視するのかを設定してもらい,それに基づいてランキングを算出する方法についても検証した.
 大学生10人に,温泉宿を決める際に考慮する重視度を項目毎に 0 から 100 の値で記入してもらった.数値は高い程,重視することを意味する.調査項目は,サービス,立地,部屋,設備,風呂,食事の6項目である.得られた重視度の分布は,個人差が大きかった.旅行の予約サイト楽天トラベル (http://travel.rakuten.co.jp/) に掲載されている温泉宿を5軒選択し,それぞれの宿について最近の100件のクチコミに記載されている評価点数およびクチコミの文章の内容から,調査に用いた6項目についての2通りの評価点を算出した.評価点の偏りを避けるためクチコミの投稿数が100以上の温泉宿を選択した.このデータを用いて,個人毎に設定した6項目の重視度に基づき温泉宿の順位付け (ランキング) を行った.
 本研究では,宿の評価点を,クチコミ投稿者が入力する評価点と,記入する文章(投稿文)から抽出した評価点の2種類の数値から算出している.解析の結果,これら2つの数値は相関が低く,一致しないことが明らかになった.そのため,評価点は投稿文の内容から算出した値を用いた.5つの温泉宿について,サービス,立地,部屋,設備,風呂,食事の6項目の評価点を計算し,さらに平均点を求める.また,項目毎の評価点は我々が提案した式を用いて計算する.このように算出した点数に基づいて順番付けした温泉宿のリストと,楽天トラベルに元々あった表示順序に並べたリストを被験者に提示し,どちらのリストが良いと思うかと,温泉宿の表示順序が自分の希望に沿っているかを,温泉宿の紹介資料等を見て判断してもらった.その結果,10人中9人が本研究で算出したランキングの方が有用だったと回答した.このことから,宿のランキング表示は個人の興味や重視度を考慮した方が良いと考えられる.また,本手法は他の商品や対象物に対して応用可能である.

【研究題目】テレビアニメーション主題歌歌詞の特徴分析
【担当者】林政宏(本学図書館情報メディア研究科),真栄城哲也(部門研究員),中山伸一(協力研究者)

  日本のアニメーション作品は国内のみならず海外でも高く評価され,現代日本文化を代表する文化の一つと位置付けられている.テレビアニメーションについての学術的な研究も進んでいるが,本研究ではその重要な要素である主題歌に使われている音素がアニメーションの主題とどのような関係にあるのかを明らかにする.放送年代,主人公の性別,主人公の年代,時代設定の側面から特徴づけした371のテレビアニメーション主題歌について,主題歌の印象に影響を与えていると考えられる音素の出現割合を算出した.音素は子音としてp,t,k,b,d,g,ts,t?,dz,d?,f,s,?,h,r,m,n,w,jの19種類,母音としてa,i,u,e,oの5種類,さらに撥音の「ン」,促音の「ッ」,長音の「ー」を加えた27種類とした.音素の出現率をもとにキャンベラ距離を用いて主題歌間の距離を求め,ウォード法によりクラスター分析を行った.それぞれにクラスターがほぼ同等数の主題歌からなるようにしきい値を定め,6つのクラスターに分類した.音素と印象についての先行研究を参考に,得られたクラスターの特徴を以下の様に捉えた.(1)脆く壊れやすいという印象の音素が多く,鋭く軽い,派手で下品,しまりのないという印象の音素が少ない,(2)柔らかく女性的,脆く壊れやすいという印象の音素が多く,鈍く重い,しまりのないという印象の音素が少ない,(3)鋭く軽い,派手で下品,しまりのないという印象の音素が少ない,(4)鋭く軽い,しまりのないという印象の音素が多く,抵抗感が無いという印象の音素が少ない,(5)鈍く重い,しまりのないという印象の音素が多く,鋭く軽い,脆く壊れやすい,穏和で円やかという印象の音素が少ない,(6)下品で子供っぽい,派手で下品,しまりのない,鈍く重いという印象の音素が多く,落ち着いた,堅い,細く明るい,穏和で円やか,柔らかくて女性的という印象の音素が少ない.

 

【成果公表】

  1. 小澤裕理,丸山太郎,森本二郎,多田愛,阿久井めぐみ,鈴木裕也,村岡知美,真栄城哲也:糖尿病教育のための知識インフラストラクチャの構築-医師と患者間のコミュニケーションの向上をめざして-.第55回日本糖尿病学会年次学術集会,S-241,2012.5
  2. 林沙輝,中山伸一,真栄城哲也:マンガの構成要素の定量的な解析と類似度判定.情報処理学会第75回全国大会,5ZF-9,2013.3
  3. 佐々木あすか,中山伸一,真栄城哲也:ボーカロイドの人気曲における歌詞とメロディの関係の解析.情報処理学会第75回全国大会,5ZF-8,2013.3
  4. 北原央樹,中山伸一,真栄城哲也:ライトノベルの人物描写に着目した定量的な解析.情報処理学会第75回全国大会,5ZF-6,2013.3
  5. H. Joho, H. Uda, A. Morishima, H. Ishii, and C. Mizoue, “Globalization of LIS Education in Japan: A Case of the University of Tsukuba,” Proceedings of the International Workshop on Global Collaboration of Information Schools (WIS 2011), ICADL 2011, pp.1-4, Beijing, P.R.C., 2011.
  6. T. Maeshiro, E. Ishikawa, E. Shikama, “Analysis of product evaluations and reviews in internet shopping sites,” Proceeding of IADIS WWW/Internet 2011, pp.525-9, 2011.
  7. 工藤剛,中山伸一,真栄城哲也, “特許分類の時系列テ?ータを用いた技術進展の計量化”,情報処理学会第74回全国大会,4N-2,2012.
  8. 林政宏,「アニメーション音楽」,アニメ産業レポート2010,日本動画協会, pp.25-28, 2010年9月.
  9. 林政宏,『国産テレビアニメーション主題歌歌詞の音素出現率による分類』計量国語学会 第54回大会, 2010年9月11日
  10. 柴田裕基,中山伸一,真栄城哲也,「ロックミュージックにおけるアーティストの影響力の分析」,情報処理学会第73回全国大会,情報処理学会全国大会講演論文集Vol.73, No. 2, pp.273-274, 2011.
  11. 米田諒,中山伸一,真栄城哲也,「日本の歌謡曲における音価と発音単位の対応関係の変化」,情報処理学会第73回全国大会,情報処理学会全国大会講演論文集Vol.73, No.2, pp.271-272, 2011.
  12. 山崎史子,中山伸一,真栄城哲也,「映画の字幕翻訳・吹替え翻訳の特徴分析」,電子情報通信学会 総合大会,2011.
  13. T. Maeshiro, M. Maeshiro, K. Shimohara, S. Nakayama: “Hypernetwork model to represent similarity details applied to musical instrument performance”, 13th International Conference on Human-Computer Interaction, 866-873,2009.
  14. 石川瑛子,中山伸一,真栄城哲也,「利用者の重視度に応じた宿のクチコミサイトにおけるランキング表示」電子情報通信学会総合大会,2010年3月16日~19日
  15. 石川瑛子,中山伸一,真栄城哲也,「旅行のクチコミサイトにおける利用者の必要性に応じた情報表示」情報処理学会第72会全国大会,1-865 - 866,2010年3月9日~11日